「結局、あんたは誰でもいいのよね」
と智佳は言った。
校庭でボールを追いかけ走り回るたった一つの影を追い続ける。校舎の2階の窓は麻美にとってのアリーナだった。
「誰でもいいわけないじゃん」
そう言ったとしても、智佳はまた笑ってすませるんだろうな。そう思ったので麻美はずっと黙っていた。
麻美にとって恋愛といえば片想いだった。男子とはろくに話したことがない。家庭が女ばかりだからか、男子とどうやって話せばいいのかよく分からなかった。
ただ、遠くで見ているだけの日々。しかし、そんな隔たりを取っ払うかのように、一人の男子が麻美に声をかけた。
同じ図書委員で、初めて会った時の彼の印象を麻美は忘れられないでいた。
その日、麻美は図書室を掃除していた。週一回は交代で図書室を授業前に掃除するのが決まっていて、麻美はその日が当番だった。あと二人、新学期になって新しく入った委員だったが、二人が待ってもなかなか来ないため、麻美一人で掃除していた。
すると、全速力で図書室めがけて走ってくる足音がした。