マヤの記憶がどんどんあたしの中へと流れ込んでくる。


唯人は帰ってくると言って戦争へ行った。


だけどそのほんの数日後、マヤとその家族は広い日本家屋の6畳の部屋でラジオの前で正座をして耳をすませていた。


ノイズ交じりのラジオは日本軍の敗退を告げた瞬間、家族の間に悲鳴に近い声と落胆のため息が漏れた。


そしてそれは、マヤにとって死刑宣告と同じようなものだった。


唯人はついさっき戦場へと向かったばかりだったのに、それなのに日本軍は負けた?


それじゃぁ、唯人は一体どうなったっていうの?


唯人はきっと生きている。


だって戦場へ向かったばかりだったもの。


『お国の為に戦うこともなかったよ』


そう言って照れ笑いをしながら帰ってきてくれる。


そう信じて、マヤは毎日この神社で唯人が来るのを待っていた。


雨が降っても、風が強くても、台風が来ても。


そして、夏祭りが通り過ぎて行っても……。


マヤは帰ってくることのない唯人をここでずっと待っていた。