友達。


それはとても都合のいい言葉だった。


恋人ではない、だけど好き。


逃げたいときに使う言葉だ。


「それなら、俺がマヤに告白してもいいんだな?」


そう言われてあたしの心臓は大きく跳ねた。


桜の木の下の告白。


あたしは唯人から逃げるように後ずさりをしたが、背中に桜の木がぶつかって動けなくなってしまった。


『マヤ』


また他の女性の名前であたしを呼んでいる。


だけど唯人はその事に気が付いていない。


あたしを『マヤ』と呼んだその日から、唯人にとってあたしは『チホ』ではなくなっているのだ。


「なぁ、マヤ」


唯人は一歩あたしに近づく。


嬉しいはずのその距離に、胸が苦しくなっていく。


「い……や……」