音楽室は他の教室とは作りが違う。


シューズからスリッパへ履き替える学校も少なくはない。


通路の向こうに見えるドア。


そのドアにお札が貼ってあるのが見えた。


「この向こうにいるのね……」


そう言った自分の口から白い息が吐き出された。


外は真夏の暑さだというのに、ここは雪国のように寒い。


凍えそうになる手は小刻みに震えていて、あたしは必死に自分の気持ちを奮い立たせた。


これは悪霊が人間に見せている幻想だ。


騙されちゃいけない。


悪霊はこうやって人間を不安にさせておいて、突き落として来るんだから。


お父さんとじぃちゃんに教えてもらった知識を思い出し、自分を保つ。


「ホナミさん、入らせてもらうよ」


あたしはドアの向こうにいるであろうホナミさんにそう声をかけた。


当然ながら返事はない。