その桜の木の下に闇に溶けてしまいそうな藍色の服を着た少女が立っているのが見えた。


一瞬にして、翔がここで告白したという話を思い出していた。


「迎えに来たよ」


少女は幼い声でそう言った。


翔は目を見開き、少女を見つめる。


「カナ……?」


「うん」


少女が笑顔で頷いた。


おさげ髪が風に吹かれて揺れている。


その足元は金色に輝いていて、少女の頭上には天へと上る階段が見えた。


「わざわざ、俺のために下りてきてくれたのか?」


「当たり前でしょ? ずっと、待ってたんだから」


「そうだったのか……」


「翔ってばなかなか上がってこないから、心配したんだよ?」


「ごめん」


翔はもうしわけなさそうに頭をかいた。


家の事情で引き裂かれた2人の愛情は、今でもまだしっかりと続いていたのだ。