花火の本数は見る見るうちに減って行き、残るは線香花火だけだった。


みんなそれぞれ手に持って、小さな火の粉を見つめている。


何か願い事でも呟いているのか、みんな黙り込んだままだった。


火の粉は小さな火の玉になり、それは徐々に小さくなり、消えて行く。


「最後の一本だよ」


あたしは残っていた線香花火を翔に差し出した。


「俺がやっていいのか?」


「当たり前だろ。お前の心残りなんだから」


唯人がそう言うと、翔は笑顔を浮かべて線香花火を手に取った。


火をつけて、桜の木の下に立つ。


花火がチリチリと音を立てながらはじけはじめた時だった、桜の花びらがヒラリと舞い落ちて来た。


あたしはハッと息を飲み、桜の木を見上げる。


さっきまで葉桜だったのに、そこには満開の桜があったんだ。


「綺麗だな……」


唯人が呟く。


あたしはその言葉に頷いた。


満開の桜は星の輝きによってライトアップされ、その下では線香花火がはじけている。


その様子はまるで幻想世界のようだった。