【短編】きっと、本気の恋だった。

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遅刻して来たにも関わらず、叱られることも無かった。

もしくは、自分が遅刻して来たことを知らないのか。 
 
あるいは自分が二時間目からの授業だけに、それを棚に上げて言うのを躊躇ったのか。

大人なんてよく分からないからそれ以上追及しないけれど。

いや、大人に限らず人間というものは分からないから当たり前かも。


嵯峨先生の教えはとても上手く、特に化学が得意らしい。

これで本当に研究職に就いていたらマッドサイエンティストになっていたかもしれないのに。


そんな風に考えていると時間も過ぎ、あっという間に放課後になってしまった。

ホームルームを終えて帰り支度をする。


「円、もう車は来るの?」


ごそごそと鞄に教材を突っ込みつつ円に尋ねた。

私よりうんと効率よく事を運ぶ円は既に詰め終わり、優雅に本なんかを読んでいる。

私の問いに左手首の腕時計を見て時間を確かめる。


「…いや、まだだ」


「あら、そうなの。私はどうしようかしら」


行きたい所が一つあるのだけれど、行こうかどうしようか迷っていた。

円は不思議そうに首を傾げる。


「どうしよう、って…琴羽は電話して来てもらえば良いだろう」

「違うのよ。学院のバラ園に行きたいの、円と一緒に」


そう言うとまた怪訝そうに眉を寄せる。


「構わないけど」


「そう?じゃあ行きましょう」


まだ円は不思議そうな顔をしていた。