【短編】きっと、本気の恋だった。

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「意識転送完了ーっと。心拍ー、血圧ともに正常ー」


やけに間延びした声。

ああ、瞼が重くて開けられない。

私は何をしているのかしら、ここはどこなのだろう。

ベッドに横たわっているようだ。

贅を尽くした限りというような丁度良い固さで──。


「琴羽…起きるんだ。頼むから目を、覚ましてくれ」


知ってる、この声。

低めで、優しい、この声を私は知ってる。

だってこの声は大切な人の声。

知っている、はずなのに、どこか違う。

ゆっくりと重い瞼を押し上げる。


視界に入るなりキラキラと光る、銀髪。


「…まど、か…?」


「…良かった、今度こそお前を救えた」


円と知っている名前を呼んでみたものの、彼の大人っぽく整った顔立ちは私の知る円とはおよそ離れたものだった。

彼の姿は立派な成人男性なのだから。

でもこの人は私を琴羽と呼んだ。


「円、なの…?」


身体を起こしてもう一度尋ねる。

銀髪の彼はこくりと頷いた。

だからといってそう簡単に信じられる訳ではないけれど。


「いきなりで混乱しているだろうが、さらに混乱させるぞ。ここは、お前が生きていた時間から八年後の世界だ」


ハチネンゴという言葉が八年後に変換されるまで少しかかった。

ということは、どういうことか。

私がタイムスリップしてきたということなのだろうか。

ふと思いついて自分の身体を眺める。


「…っ!」


息を呑んだ。

私の身体はさっきの言葉からするに、八年後の姿であろう形をしていた。


「何、どうして」


「落ち着け」


慌て始める私に円もとい大人円が声をかける。