【短編】きっと、本気の恋だった。


私の行きつけの紅茶が美味しい店で、早くもティータイムだ。

お父様はダージリンをミルクで、私はアールグレイをミルクで注文した。

私はこのお店のアールグレイが好きだ。

爽やかなベルガモットの香りが引き立つ上に、ミルクと合う。

保存状態やものによってはミルクとの相性が悪かったり、悪くはなくともベルガモットの酸味がきつすぎたりする。

私はレモンティーよりも断然ミルクティーで飲む方が好き。
レモンティーなんかは運動の後に飲むのが爽やかで美味しいけれど、ミルクティーは優しくて癒しをくれる。

ミルクティーのくれる優しい甘さが私は大好きなのだ。

おすすめはアールグレイだけど、ダージリンも私は大好き。

芳醇で奥行きのある香りが何とも素晴らしいから。


「ああ、ここの紅茶は素晴らしいな。深みがあって、ミルクと合う。疲れているときにこの紅茶があれば仕事も進みそうだ」


お父様は感心したようにカップの中を見つめる。

湯気がふわふわと漂う。

夢なんじゃないかと疑ってしまうけれど、やはりこれは夢じゃないんだ。

しみじみと噛み締めながらカップを傾ける。

私の愛する味がふわりと舌の上で踊った。


至福、なのかしら。これが。


そう思ってから、いいえと内心で首を振る。

私の至福は、円とこのお店で紅茶を飲むことだ。

いつもと同じ素晴らしい味だけれど、円が居ないだけで少し味気なく感じるもの。

お父様の目の前だと緊張するし。


「私、このお店が大好きなんです」


「そのようだな。さすが私の娘だ、見る目がある」


何と言って良いか分からず、ありがとうございます、とだけ呟いてまたカップを傾けた。

さすが私の娘、と言って下さった。

娘だと。

やっぱり泣いてしまいそう。


「いやしかし、本当に眠そうだな。大丈夫か?」


カチャリと軽い音の後に、お父様が私に尋ねる。

何だか嬉しくて必要以上に笑顔を作ってしまう。


「大丈夫です。だって、お父様と御一緒しているのですもの、楽しいわ」


「そうか…なら良いんだが、やっぱり今日は外出しない方が良かったんじゃないかな」


「いいえ!そんなことありませんわ、お父様とお出掛けなんて夢のようですもの」


「大袈裟だなあ。…そういえば、円くんとは最近どうなんだ?」


「円ですか?変わりないです、いつも楽しくて」


「そうか。お前は昔、円と結婚するだ何だって騒いでいただろう」


面白そうに私を見るお父様。

そんなの大昔の話。

結婚すればずっと一緒にいられると思っていた、幼いあの頃の話。