【短編】きっと、本気の恋だった。


でも。油断してはいけない。


「お父様。今回の罰は何でしょうか」


尋ねると、お父様は得意気に、でも優しく笑った。


「今日はな、琴羽。私を楽しませるのが罰だよ」


「え…?」


「どうも、最近は疲れていたのだろう。だから寝坊が続いたんじゃないか?」


涙が出そうだった。

驚きと嬉しさが相まって、言葉が出ない。

初めてかもしれない。

お父様が私にこんな風に笑いかけて下さるのは。

気にかけて下さるのは。

完璧を求めないのは。

嬉しくてどうにかなりそうだ。

ねえ、円。もし円が何か言ってくれたのなら。

ありがとう。

私の行いは無駄じゃなかった。


「琴羽、今日は好きにして良い。だが、私にお前の好きなものを教えてくれ」


「はい!」


「良い返事だな。琴羽は何が好きなんだ?」


嬉しさのあまり目を見開いて見つめたままになっていた。


「ああ、えっと!私はっ紅茶が好きで!」


「そうか、紅茶か。どこか良い店はあったかな」


「私、存じてます!こちらです!」


柄にもなく焦り、思わずお父様のジャケットの袖を掴んでしまった。

ひやりとして振り返る。


「ん?どうかしたか?」


幸い気にしていないようでほっとした。

袖は離したものの、やはり少し名残惜しかった。