【短編】きっと、本気の恋だった。

それから数十分後。

行ってくるわ、と告げてから車に乗り込む。

お父様が運転手に行き先を言ってくれているなら安心。


「おはよう楢崎。今日もお願いします」


「お嬢様…」


「何かしら。もう、皆して心配しすぎよ。心配して下さるのは嬉しいけど、不安になってくるじゃないの」


こちらの身にもなって欲しい。

朝から心配そうな目で見られ、お気を付けてと声をかけられる。
何があるのかと私まで不安になってしまう。

何だろう、今日の私の星座占いが最悪だったのだろうか。

それなら気にすることじゃない。

私は星座占いは一番信じていない類いのものだから。

だって、おかしいじゃない。

同じ月に生まれた人が皆同じ運命を辿るなんて。

人はそれぞれ自分の意思を持って動いているのだから、それぞれ違う、自分だけの運命を持っているはず。

多数の人間の内の、たかだか一人の言葉で運命を左右されるなんて、誰かの思い通りになるなんて、そんなのたまったものじゃない。

私は誰にも指図されず、自分の意思で生きている。

私の中で絶対にぶれないモノ。

否、私であるためのもの。

それは円の存在だ。

円がいる限り私は壊れたりなんかしない。

もしもなんて考えない。

壊れる可能性を作らない。

そう、決めたの───。


「お嬢様、よく聞いて下さい」


楢崎が震える声でミラー越しに言った。

景色が流れていく。


「楢崎──様子がおかしいわよ。大丈夫なの?」


「私は大丈夫です…琴羽お嬢様。貴女は、貴女はご主人様の恐ろしさを分かっていらっしゃらない」


「何を急に言い出すのよ。そりゃあ、私が理解できないことの方が多いに決まっているわ」


「違います。それだけではありません。あの方は…邪魔者は全て消します。思い通りにするためには、その手段を選ばない」


一理、あるけれど。


「大丈夫よ。私は壊れたりなんかしないもの」


そう言い張り、目を背ける。

何か悪寒のようなものが走ったことには気づかないフリをした。