【短編】きっと、本気の恋だった。

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幾度、奇妙だ変だとは思っていてめも、時間は謎が解けるのを待ってはくれない。

もうお父様との約束の日が来てしまった。

あれから円と私はそれぞれ家に帰り、電話で話した。

円はもし、不自然な呼び出しなどがあれば絶対に応じないこと。

何かあればお互いに連絡をすること。

この二つを約束した。といっても、それしかできない。


昨日のことを思い返しながら、服を着る。

きちんとして見える、清楚な白いワンピースだ。

もちろん髪飾りは必ず着ける。


やっぱり、起きようと思っていた時間より二時間も遅く起きてしまった。

幸い、お父様との約束まで時間があるからそこは心配ないけれど、やろうと思っていた勉強もできなかった。

最近の私はどうも弛んでいるみたい。


「お嬢様、本当にお行きになるのですね」


私付きの女中、榎本が心配そうに表情を曇らせて私に尋ねた。
お父様がご一緒して下さるのだから心配は要らないと昨日から何度も言っているのに。

榎本はこの所えらく心配性だ。


「罰とは言っても…お父様がご一緒なのよ?きっとあの方のことだから、何かのコンクールだと思うけど」


そう、これまでにも幾度となく私は罰を受けてきた。

何ということはないのだ、それこそ私が欠陥品であることの印なのだから。

そしてその罰の大概が数学コンクールや英語検定、料理や生花祭への突然参加だった。

普通は練習しないと出来ないようなことだが、さすがお父様の教育と言えようか、難なくパスしてしまった。

私の努力も結果に含まれていて欲しいものだけど。


「どうぞ、お気をつけて」


「もう、そんな暗い顔されちゃこっちまで不安になってくるじゃない。明るく送り出してよね」


冗談めかして言ってみても、榎本の表情が明るくなることは無かった。

朝食を食べる間も、何だか、この屋敷の全員が不安げに私を見るのだった。