「そろそろ時間かしら」
「いや、まだだ。要から連絡が入っていない」
要は円の兄だ。
勉学では秀才中の秀才なはずの要だが、それ以外はまるで抜けている人。
一つ上の学年で、私たちが通う飛香とは違う学院に通っている。
迎えは紫香楽のお家から遠い要が先で、その後に円を拾って帰るという形だ。
紫香楽ほどの家なら別々に車を出せば良さそうなものだが、要は重度のブラコン。
一緒に帰りたいらしい。
「じゃあもう少し、世間話でもする?」
「何だ、今日はやけに話すな」
「んー…何だか円と話したいというか、話しておかなきゃいけない気がするのよね」
何だかよく分からないけれど、そんな気がしていた。
「何だ、それは」
おかしそうに笑って腕を組み、私の髪飾りに触れる。
「…お前、熱でもあるのか」
「失礼ね。私はいつでも素直で可愛いわよ」
「分かった分かった」
「何、馬鹿にしてるの?」
「いや。何だか久し振りだな、と思って」
風が吹く度に円の髪が揺れる。
銀なんて頓狂な髪が似合うのは本当に少数だと思う。
自分の幼馴染みが美形なのは私の自慢の内の一つ。
「そうね。前はよく円が家にいたけれど、最近はあまりないわね。やっぱりお仕事が忙しいの?」
円と要もそろそろ年が大きくなって来たので、紫香楽のお父様が本格的にお仕事を教えるそうだ。
「…ああ。父さんは『長男だろうが次男だろうが、関係ない。能力は生まれた順で決まりはしないからな』と言っていた」
「あの方らしいわ」
「ああ。琴羽は…そのまま冷泉を継ぐんだろうけど」
「まぁそうなるわね。お父様の理想は高いから、頑張らなく──」
最後まで言葉を紡ぐ前に、ゴウッと強い風が吹いた。


