バラ園にはジンクスがある。
誰かと─そう、大切な人とそこに行き何かしらの約束をすると、ずっと一緒にいられるらしい。
私にとっての大切な人は円。
円だけだ。
他にはいらない。
小さな頃からずっと一緒で、いつも私を暗闇から救ってくれた。
お父様に叱られ、頬の痛みと叱られた悲しさで泣いているといつも慰めてくれた。
冷泉の人間以外の、普通の人なら入れない冷泉家に立ち入ることを許されたのは、紫香楽の人間だけだったから当然かもしれないけれど、私のそばにいたのはいつでも円だった。
父様は叱るとき以外、滅多に私とお会いして下さらないから円は家族のような存在なのだ。
だから円と一緒にいたい。
円とずっと──。
「行きたい所って、薔薇園だったのか?」
少し先に見えた色とりどりの薔薇の群れ。
「ええ。思った以上に、綺麗なのね…」
家にあるような手入れされ過ぎてもはや味気ない庭とは違う。
ほどほど、という言葉がピッタリのどこか温かくて心地好い空間だ。
落ち着いた真紅、上品な桃、重みを感じる橙、清らかな白。
「綺麗だな」
円も花は好きなので、嬉しそうに薔薇たちを眺めている。
少し風が吹き、私の髪を揺らした。
左側につけたヘアピンが落ちないように押さえる。
昔、円にもらったヘアピンだ。
金色の細いピンの先に、桜の形のガラスに本物の桜の花びらが入ったものがついている。
それにクロスさせるように無地の金色のピンを留めつけて、レースの飾りを固定するようになっている。
「…それ、まだ持ってたのか」
「勿論よ。可愛いもの」
「別に、新しいのつけて良いんだぞ」
「要らないわ。これが気に入っているから」
円はそうか、と少し嬉しそうに頷き、ベンチに腰を下ろした。


