もう一度君に会えたなら

 わたしにとっての父親はいつも仕事で忙しく、会えない日も多々ある。だが、それでもわたしのわがままを聞いてくれるし、わたしが話しかければ嬉しそうに聞いてくれる。ほしいものがあれば買ってくれる。きっとそういう父親ではないのだろう。

 彼がいつかわたしに父親のことを話してくれる日は来るのだろうか。

 そのときケーキが運ばれてきて、わたしたちの目の前に並んだ。そして、彼はケーキにフォークを入れていた。

 わたしたちはケーキを食べ終わると、店を出た。

「そろそろ帰ろうか」
「そうだね」

 彼はこれからバイトだ。
 本当はもっと一緒にいたい。

 だが、その気持ちを言葉に伝えられずにお店を出てすぐの信号の前で彼と別れた。

 彼は急いでいたのか、次第に遠ざかっていった。
 わたしは彼から目をそらすと、短くため息を吐いた。
 振り向いてくれることさえない。

 デートってこういうものなのだろうか。
 彼はどこかつかみどころがない。

「あのさ」

 聞き覚えのある声に振り返ると、川本さんが立っていた。