もう一度君に会えたなら

 彼女は悲しそうに微笑むと、踵を返し去っていった。

 川本さんの視線が外に流れた。彼は不思議そうに首を傾げた。
 同じ学校の人にばれてしまったんだろうか。

「川本さんは同じ学校の友達にわたしと付き合っていることは言っているの?」
「言ってないよ。別に聞かれないし」
「そうだよね」

 そんなものかもしれない。同じ学校ならいざ知らず、わたしもいろいろしてくれた榮子以外には彼と付き合っていることは言っていなかった。そもそも自分から彼女ができたと言い振らすタイプには思えなかった。だったら、同じ高校の人に見られたのはまずかったのだろうか。

 素直に彼と同じ学校の制服を着た人がこちらを見ていたと言えばいいのに、いろいろ考えた末、抽象的な言葉が飛び出してきてしまった。

「他の人に知られたら困る?」
「困らないよ。ただ、父親には言いたくないかな」

 彼は苦笑いを浮かべた。
 父親という言葉にドキッとした。彼の話に幾度となく出てくる父親はどんな存在なのだろう。