もう一度君に会えたなら

 何度目か分からない車のクラクションとともに携帯が音楽を奏で始めた。発信者はお母さんだ。
 電話を取ると、すぐに慌てたような声が耳に届いた。

「今、どこにいるの?」

 わたしは返事に困った。まさか海に着ているなど言い出せなかった。来たいと思ったのも、あの夢に触発されたからだ。お母さんはわたしの言葉を鼻で笑うだろう。

「唯香?」
「太田さん?」

 ほぼ同時に違う声が聞こえてきて、顔を上げると川本さんがこちらにかけてくるのが見えた。
 まさか会えるなんて思わなかった。
 電話越しにお母さんが何かを言うが、わたしの耳には届いていなかった。
 やっとの思いで声を絞り出した。

「今から帰るから、ごめん」
「ちょっと、唯香? 今から迎えに行くわ」

 わたしは電話を切ると、電源も切った。
 川本さんが息を切らした状態でわたしのところに到着した。

「どうしたの? こんなところで。それもこんな時間まで」
「会いたかったから」

 さっきは榮子の言葉を否定していたのに、わたしの口から気持ちがあふれ出した。