もう一度君に会えたなら

 駅を降りるとわたしは海への道を急いだ。まるで何かに急き立てられるかのように、駆け出していた。だが、わたしの淡い気持ちは潮風にかき消された。川本さんどころか、人の気配さえなかった。

 わたしの視界がじんわりとかすんだ。分かっていたはずなのに、何を期待していたのだろう。
 急く思いでわたしは携帯を取りだしていた。そして、彼に電話をかけていた。
 だが、呼び出し音がならなかった。
 わたしは携帯を手に、その場にうずくまった。

 電源が切れたのかもしれない。前向きに考えようとしても、ネガティブな気持ちが一瞬で飲み込んでしまった。
 
 彼はわたしの前からふっと消えてしまうのだろうか。あのときのように。
 あのとき。そう。また会えると再会の約束をして、わたしの前から去っていってしまったかのように。

 わたしは自嘲的に嗤った。今のわたしは間違いなくやばい人だ。
 そもそも彼とそんな約束をしたことさえないのに。
 何を考えているのだろう。

 そう思っても、目からあふれてくる涙は増える一方だった。

 吹き付ける風は強くなり、太陽の位置も徐々に低くなっていた。