もう一度君に会えたなら

 わたしは自分の考えを笑った。望みなんて大げさだ。他愛ない約束事に過ぎないのに。それでもこの心の引っ掛かりをうまく説明できなかった。

「わたしも何か考えてみるよ」

 そう言ってくれた榮子と別れ、自分の家に帰ろうとした。だが、わたしの足はおのずととまった。
 そして、今の場所を確認して、家とは違う方向に歩き出していた。わたしの目的地はあの川本さんと再会した海だった。

 平日の学校がある日に彼があんな場所にくるかどうかは分からない。むしろいない可能性が高い。そう分かっているのに、わたしの足は止まらなかった。
 
 きっとわたしにとってはあの海が何よりも大事な場所だった。あの海とは違う海なのに。
 何かで殴られたかのように頭が痛んだ。同時に目頭が熱くなってきた。思い出せそうで思い出せない。だが、その答えを誰かに聞くことなどできない。なぜこのような意味の分からない症状に悩まされているのだろう。

 駅についたわたしは、ちょうどやってきた地下鉄に乗り込んでいた。