「そんなに会いたいなら、どこかに誘えばいいのに」
「誘うって言っても用事がないもの」

「せっかくいい感じで会っていたのに」
「あれは調べものをしていたんだよ。たまたま二人して同じものに興味がわいてね」
「何? それ?」

「理由は深く聞かないでくれるなら教える」
「約束する」

 わたしは榮子がそう言ったため、二人で会っていた理由を伝えることにした。

「鎌倉時代の、源頼朝の娘と木曽義仲の息子について調べていたの。大姫と義高っていうの」

 一瞬榮子は顔をゆがめた。彼女はそっと唇を噛んだ。二人のことを知識として知っていたのかもしれない。

「マニアックだね。でも、そんなに資料はないんじゃないの? だから図書館か」
「そういうこと。結局何もわからなかったもの」

「難しく考えずに、会いたいって言えば?」
「そんな告白するようなことは言えない。そもそも相手に彼女や好きな人がいるかもわからないもの」
「いないと思うよ。いたら、唯香にそんなに頻繁に会わないと思う」
「そうだといいけどね」