わたし自身川本さんに会いたくないわけではない。彼には聞きたいことがいろいろあった。まずはあの夢をまだ見ているかだ。その内容がわたしがつい最近見たものと同じかどうかを確認したかった。

 そして、もう一つ。あの本を読んだ感想を聞いてみたかった。わたしの感想はなんとも言えないものだった。しっくりくる部分もあれば、どうも引っかかりを覚える部分もある。

 わたしは結局、ラストをほとんど読まずに飛ばしてしまった。義高が亡くなってからのエピソードだ。大姫は義高の死後、彼を思い続ける。その一方で頼朝は他の人と婚姻を進めようとする。それを大姫は頑なに拒み続けたようだ。ようだと思ってしまうのは、内容をほとんど飛ばしてしまったから。彼女の心の中には命が尽きるまで義高の存在があり続けた。それを純愛だと人はいうのだろう。

 だが、わたしにはいいようのない悲しみを与えるだけだった。彼はあの本を読んでどう思ったのだろう。最後まで読めたのだろうか。

 なにも彼女たちだけが特別というわけではないことは分かっていた。日本の歴史上、争いがあった時代は少なくない。政略結婚に、結婚相手との死別。仲間だと思っていた人が敵になる。敵と婚姻を結ぶ。今の日本では普通の家に育ったのなら、あまり考えられないことだ。今まではそうしたことを単語上の出来事として捕えていたフシがあっただろう。だが、あの夢以降は見方が変わってしまった。歴史の教科書で書かれている以上に多くの悲しみや憎しみが存在していたのだろう。今までになく、歴史上の人物について考えてしまう機会が増えてしまった。