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 わたしは息を切らしながら、辺りを見渡した。

「どうしたかしたの?」

 聞きなれた声に振り向くと、お母様が驚いた顔をして立っていたのだ。

「お昼寝をしている間に、義高様がどこかに行かれてしまったの。一緒にお花を見に行く約束をしていたのに」
「彼なら部屋に戻っているわよ。あなたが寝てしまったから、と」
「そっか。よかった。どこかに言ってしまわれたのかと思った」

 わたしは胸をなでおろした。
 そんなわたしをお母様は複雑そうな顔で見ていた。

「お母様?」
「姫は義高殿のことが好きなの?」

 好きという言葉が心にぬくもりをもたらした。わたしは顔を綻ばせると、首を縦に振った。
 お母様は顔を綻ばせた。

「親同士が決めた婚姻だからと思っていたけれど、あなたたちにはあまり関係なかったのね」

 わたしは意味が分からずに首を傾げた。

「義高殿が待っているわ。早く行きなさい」
「分かりました」

 歩きかけたわたしの足が止まった。

「お母様、義高様とお城の外に出かけていい?」
「お城の中だけにしなさい」

 わたしはお母様の言葉に頷いた。
 返事は分かっていたが、残念な気持ちはぬぐえなかった。
 あれから、海を見に行けることはほとんどなく、遊ぶときはいつも城の中だけだ。