わたしはあくびをかみ殺すと、机に伏せた。昨日はずっと本を読んでいたため、眠るのが十二時を回っていた。いつも十一時に眠るわたしには一時間以上の夜更かしは堪えてしまったようだ。

「今日は眠そうだね。どうしたの?」
「本を読んでいたの」
「川本さんのおすすめの本でも借りたの?」

 わたしは目を輝かせながらそう問いかけた榮子の言葉に苦笑いを浮かべた。
 昨日、榮子には川本さんと一緒に図書館で待ち合わせをしていると伝えたためだ。
 若干違うが、お勧めといえばそうなのだろう。

「いろいろうるさく言ってくるのがうざくて、喧嘩したら、一昨日彼氏と別れちゃった」
「そうなの? 大変だったね」
「でも、お蔭で森田さんと付き合えたし、よかったかな」
「え? 森田さんってバイト先の人?」

 クラスメイトの話し声がわたしの耳に届いた。わたしの三つ前の席で三人のクラスメイトがそんな会話が繰り広ていた。
 彼氏ができたと言っているクラスメイトは髪を耳にかけると得意げに微笑んだ。

「まあね。かっこよかったし、迷っていたんだよね。ちょうどよかったよ」
「さすがだね」
「たまたまだよ」

 新しい彼氏か。
 人の恋愛は自由だし、それをどうこういう権利はない。きっとそうして何度か人を好きになり、様々な思惑とともにその先の未来へと歩んでいくのだろう。それが当たり前のことだ。

 だが、幼い恋心をずっといただき続けた大姫のような思いもあっておかしくはないはずだ。たとえそれが幼稚園くらいの年で、両想いだったとしても。