川本さんはだからこうした本を選ばなかったのだろう。こうしたものは創作ありきなのはわかっているが、わたしもどことなく気が進まなかった。

 わたしたちは本をもとにあった場所に片づけると、その本の前にどちらかともなく戻ってきた。そして、お互いの顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

「えり好みしている場合じゃないか」

 彼は苦笑いを浮かべると、本を手に取った。

「これは長いから借りるよ」
「終わったらわたしも読んでみたい」
「分かった。読み終わったら教える。明日か明後日には終わると思うけど」

 彼はそう会釈をした。

「よく本を読むんですか? 読むのが早いんですね」
「たまにね。最近はよく読むかな」

 それは受験を諦めたからだろうか。さすがにそんな無神経なことは言えないけれど。

「吾妻鏡は読んでみた?」
「まだです」
「そっか。何か複雑だよな」

 曖昧な言葉だったが、その何かが何を指すのかをおのずと分かってしまった。
 わたしたちは結局何の成果もあげられずに、図書館を後にした。


 その日、家に帰って吾妻鏡を読んでみた。
 やはりなんとも言えない気持ちになってしまった。