もう一度君に会えたなら

「少しだけ夢の話を聞かせてくれませんか?」
「いいよ。ここで長話もなんだから、その本をどうするか決めないとね」

 わたしは少し考えた末に、その本を借りることにした。
 図書館の外にはソファが並んだ、談笑できる場所が備わっていた。だが、人通りが多いため、わたしたちはそこで話をするのは避け、外に出ることになった。

 彼は照れたように笑うと、夢の話をしてくれた。彼の話は起点がわたしとは少し違っていて、鎌倉に行くことが決まったときからのようだ。そして、屋敷に連れてこられ、頼朝の娘と出会った。彼女は海に行こうとせがみ、二人が約束をかわしたところで終わっていた。彼の夢は義仲の息子の視点で続いていたようだ。

「海に行っていたのもそうなんですか?」

 川本さんは頷いた。

「無性に海を見たくなったんだ。海なんて子供のときから何度も見たことがあったはずなのに。変だよな」
「わたしもそうだったから、わかります」

 なぜわたしと彼は同じ夢を見ていたのだろう。
 だが、その答えはわたしたちには分からなかった。

 彼がバイトの時間だというので、途中まで一緒に行き家に帰ることにした。
 夕食前に吾妻鏡の二人の話を読んでいた。仕方ないとはいえ、自分の親に最愛の人を殺され、どんな気持ちだったのだろう。わたしは大姫のことにただ思いを馳せていた。