もう一度君に会えたなら

 彼はわたしに本を渡した。
 だが、わたしはその場に突っ立ったままだ。

「太田さん?」
「川本さんはどうしてこの本を読もうと思ったんですか?」
「だからさっき言ったように、たまたまだよ。君もだろう」
「わたしは違います」

 自分でも馬鹿げたことを言っていたと分かっていた。それでも彼には本当のことを言いたいと思ったのだ。

「わたし、夢を見ているんです。源頼朝の娘の大姫と木曽義仲の息子の義高の夢を」

 彼は目を見張った。その彼の目が煌めくのに気付いた。

「まいったな」
「ごめんなさい」

 わたしは顔を伏せ、本を握る手に力を込めた。
 歴史に出てくる人の夢を見たなんて言われてもドン引きするだけだ。言ったことを後悔したとき、予想外の言葉が耳に届いた。

「俺もだよ。ここ数週間たまにだけど」

 わたしは驚き、彼を見た。

「名前が出てきていて、それでこの本にたどり着いたんだ。でも、俺と君が同じ夢を見ていたなんて、不思議な感じだな」