そこには淡い水色のシャツを着た川本さんがが立っていたのだ。彼はぼんやりと海を眺めていた。
 わたしの足はおのずと止まった。
 榮子は深々とため息を吐いた。

「どうする? 話しかける? それともむこうでわたしのおごりで何か食べる?」

 彼女はデートの誘いを断られたということを気にしていたのだろう。
 それも断った日に、一人で海に来るなんて時間がないわけではなかったのだ。

「そうだね」

 本来なら避けてもおかしくないはずなのに、わたしには彼に冷たくされるという不安を微塵も感じなかった。挨拶だけでもしてくると言葉を綴ろうとしたとき、彼が振り返った。彼は目を見張った。

 彼は目を細めると、わたしたちのところまで歩み寄ってきた。

「偶然だな。彼女は友達?」

 わたしが返事をする前に、榮子がわたしと彼の間に割って入った。

「そうです。そもそもいいご身分ですね。今日はバイトじゃなかったんですか?」
「今からだよ。もう少ししたら行くつもり」
「だったら、それまで唯香に付き合ってあげればよかったじゃないですか」

 榮子は頬を膨らませ、彼を睨んだ。
 彼は榮子の冷たい態度の理由に気付いたのだろう。
 苦笑いを浮かべると、髪の毛に触れた。