もう一度君に会えたなら

 早く家に帰ろう。
 そう思ったわたしの前に人影が現れた。

「お母さん」

 彼女は店のほうに目を送った。

「川本ってどういうことなの? 川本吾郎の息子なの?」

 お母さんはわたしの肩を掴んだ。
 もともと川本さんとの付き合いを反対していたのに、最悪の知られた方だ。

 わたしは唇を噛んだ。

「そうよ」
「分かっていて付き合っていたの? もっと早くに名前を聞いておけばよかった。彼とは即刻別れなさい」

「どうして? 両親の間でトラブルがあったからってどうしてわたしがあの人と別れないといけないの? わたしは彼が好きなの」
「別にあの人じゃなくてもいいでしょう。あなたのためよ。絶対にそうしたほうがいい」

 あなたのため。何度そう言われてきただろう。今まではその言葉を親の愛情だと思っていた。だが、今ほどその言葉を重いと思ったことは一度もなかった。
 わたしが望んでいるのは他のなんでもない。川本さんと一緒にいられることだけなのに。

「嫌。わたしはあの人が好きなの。あの人じゃないとダメなの」
「そんなの一時的なものよ。きっと彼よりあなたに相応しい人がいる。なんなら、もっといい人を紹介してあげるわ」