もう一度君に会えたなら

「ちょっとだけ」
「送るわよ。車のほうが早いでしょう」

 きっとお母さんに言えば反対されるだろう。わたしは首を横に振った。

「すぐに戻ってくるから大丈夫」

 そう言い放つと、わたしはお母さんの言うことを聞かずに、そのまま家を飛び出していた。

 彼のバイト先に着くと、わたしは店内を見渡した。
 お店の中で屈みこみ、商品を触っている川本さんを見つけた。

 そうだ。バイト中だから、わたしと話をすることなんてできない。
 本当はこのまま待っていたいが、帰りが遅くなればお母さんに何か言われるだろう。
 気持ちがふっと冷静になる。
 今日の夜でも電話をしてみよう。
 そう決意して家に帰りかけたとき、わたしを呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ると、川本さんが立っていたのだ。

「君が見えたから。どうかした?」
「川本さんに会いたかったから来たの」

 わたしは笑みを浮かべた。

「最近はずっと会えなかったからね。夏休みになったら、遊びに行こう」

 わたしは首を縦に振った。

「川本」

 お店から男の人が顔を覗かせていた。彼は川本さんを手招きしていた。

「ごめん。怒られるかな」
「大丈夫だよ。また連絡するから」

 彼は笑顔を浮かべると、お店の中に戻っていった。