実琴は、そっと周囲を伺ってみた。

朝霧は院内を把握しているのか、迷いなく先程武瑠が歩いて行った病棟の方へと足を向けた。

実琴の病室の位置も分かっているみたいだ。

(朝霧は…病室の前に行ったら私(ミコ)を下ろすんだろうか?)

一度(ひとたび)見つかれば大騒ぎになり兼ねないのに。

何より…自分自身も病室へと行ったところで、実はどうしていいか分からなかった。


『手っ取り早いやり方は、同じことをしてみるのが一番』


守護霊さんが言っていた言葉。

(でも、眠っている今の状態では、そんなこと無理だし…)

だが、このチャンスを何とか生かして、少しでも良い方向へと持っていきたい。

(折角、朝霧がこんな風に協力してくれてるんだもん…)


そう、思った時だった。




ガシャー―――――ンッ!!




奥の方で、もの凄い音がした。

「キャーッ」という悲鳴と。

鳴り響くナースコールの呼び出し音。

そして、

「どうしたんですかッ?」

「何があったのっ!?」

慌てて駆け付ける看護師たちの声。

その間にも、ガタン、ガシャーーン等、物が落ちたりぶつかるような音が聞こえてくる。


(いったい、何が…?)

その騒ぎに一旦足を止めた朝霧と共に、その音の先を見つめる。

すると…。


「辻原さんっ!?どうしたんですかッ!?」

「落ち着いてッ!辻原さんッ!!」

看護師たちの慌てた声と。


「待ちなさいっ実琴っ!どこへ行くのッ?」


それは叫び声に近い…聞き覚えのある声。

その母の声を背後に。ガタガタと、よろめきながら『実琴』が病室から出て来るのが見えた。