俺は一瞬の刹那という時間がどれだけ重いかを知っていた。
失ってしまうんだ。全部。
ぼろぼろになって、壊れて、そして何もかも失う。
俺の心はいつも不安定で、いつの日か消えてしまいそうな想いが胸を締め付ける。
空と一緒に消えてしまえたら、何度思ったことだろう。
もう見たくないんだ。
中野の詞は俺が探していた想いだった。
もう消えてしまいそうな程小さくなっていた想いが、急にまた戻ってくる。
俺の心に存在し続ける、アイツは――今でも俺を苦しめる。
「いーちーのーせ君っ!」
その声に振り返ると、やっぱり中野だった。
何で来たんだよ。
そう思ったけれど、一瞬でその言葉を失わせた。
だって俺の目の前にいきなりカルピスが飛んできたから。
「ナイスキャッチ!」
いきなり渡しといて、ナイスキャッチはないだろ。
「知ってる? カルピスって“初恋の味”なんだって」
中野はその言葉だけ言うと、自分が買ってきたカルピスを勢いよく開け、そのまま屋上で一気飲みしていた。
全てがオレンジに染まっていく瞬間を、俺と中野の影だけが見つめていた。
「お前ってさ、何で詞を書こうと思ったんだよ?」
ふと出てきた質問。
その質問に中野は笑顔を俺に見せながら
「好きだから! 大好きだから、詞が」
そう言ったんだ。
あまりにも、心に響く。
俺だって昔は――
「一之瀬君も絵が好きなんでしょ?」
「嫌いだ」
即答した。

