ふっと笑いがこぼれる。

 過去の自分があまりにも俺の過去を殺そうとするから。


『思い出すな!』


 そう、叫んでるのが聞こえる。


 でももう俺は――走り出したんだ。

 後ろを振り返って、後悔を残すくらいなら今を生きよう。

 
「俺の親父は多くの犠牲者を出したんだ」

 
 中野の眼は揺らぐことなく、変わらず俺だけを見ている。

 
 その眼が時に純粋すぎて、眼を合わせるのが恐かった。

 俺を知られるのが恐かった。


 けれどそんな恐れなんか今の俺にはない。
 
 ただ中野が好きなんだ。

 眼を閉じる。ゆっくりと。


 ああ、変わらないな。

 真っ暗で、光もなくて、そこは色も何もない。

 
「きっと、過去の俺も、死んだ父親もこんな所に住んでいたんだろうな……」

 ぽつりと呟いた言葉。



 その言葉に、どれほどの重みがあるのだろう。