背中に回された腕。

 その腕は震えていた。


 瞬間、私は気づいた。


 一之瀬君だって私と同じ気持ちだったでことに。


 離れるのが恐いのは、私だけじゃない。


 
 きっとここが私たちの行ける限界地点。

 あとは私たちに進む勇気を下さい――。



 * * *


 辺りはすっかりと夜に変わっていた。

 あんなにキラキラと光っていた水面は今や漆黒の闇につつまれ、代わりに月が写っていた。

 
 隣に居て黙ったままの一之瀬君をちらっと横目で覗いたけど、夜のせいで表情がまったく分からなかった。

 
 私は一之瀬君を見るのをやめて、今の気持ちを整理しようとする。


 
 進むことを選んだら、もう逢えないのかも知れない。

 進むのを止めてしまったら、一之瀬君の夢を奪ってしまう。


 どっちも嫌だ。


 結局答えは見つからないのかもしれない。