ひとひらの花びらが舞い落ちる。

 私はその光景をスロー再生しているかのようにぼうっと見入っていて、ただ流れる時間の止まる瞬間を探していた。



 あの日、私は一之瀬君を“はじめて”見たんだ。

 周りの空気と同化するかのように、消えていきそうな姿は、一瞬で私の目の中に飛び込んできた。

 
 クラス替えが書いてある掲示板さえも気にせずに、ただ虚ろな目に私は何かを感じて――。


 けど。
 あの瞳にもう吸い込まれることは一生ない。




 だってもう、一之瀬君はいないから。


 
 一之瀬君はあの後学校を退学し、絵の世界に飛び込んだ。

 その際に私は一之瀬君からある物を貰った。


――『持っていて欲しい。俺にはもう“過去の弱さ”を捨てるから』

 
 そう言って渡されたのは、一之瀬君の家の鍵。

 そんなのもの唐突に渡されても受け取りにくかったけど、「どうしても」と言われ、私は持っている。