誘う幻想 ノーカウント37

歌っても疲れにくくなったけど、流石に疲れてきた。

「お腹すいた……あっ」

お金は無い。ここは自分のいた場所じゃない。夢じゃない。

「食べられない……」

急に歌手になれる訳じゃない。なるまでにもお金がかかる。子供の私が働ける訳が無い。

「私……馬鹿すぎる」

何でこんなことにも気付かなかったんだろう。
とぼとぼと街を歩く。いつの間にか、力を奪った場所の近くに来ていた。

「警察は政府に言われて協力してくれない……!」

「美貴は意識を取り戻したけど、今まで通り歌えなくなった!」

あの時いた二人が泣いていた。

「……あの時、美貴さんを殴ったのは私なんです!」

自分の予想を超える大声が出た。

「消すしかないな、邪魔者は」

いつの間にかあいつがいた。耳元で低い声で言う。
そして、上空から私を見降ろす。

「あなたも道連れです」

上空にいるあいつを見て言った。
私のせいでこんなことになった。だから……私が責任を取らないと。