誘う幻想 ノーカウント37

「ありがとう。それはやる」

「いらない!」

私は棒を押し付ける。

「本当にか?あの女が奪いに来てもいいのか?」

「いいよ!」

奪いに来てもだなんて……こっちが奪ったのに。
あの人は去っていく。私は木の下に座りこんだ。
警察に自首する勇気は無かった。

「何であんなことしたんだろう……」

元から向いていなかった私が奪って歌手になっても意味が無い。

「無駄な夢を追う時間で~人を苦しめ……」

気付いたら歌を歌っていた。

声が、いつもと違う。息が続く。音程も完璧。

「本当に奪っちゃったんだ……」

ミスなく歌えるのはこんなに気持ちがいいんだ。知らなかった……
何曲か歌ってしまうと中毒になった。もう手放したくない!