そのことが、ついさっきの女をまた自分の視界に入れることになってしまったけど、
そこにあった表情は、もうすでに紫音へ魅せられていることがわかるようなものだった。



「ここじゃ俺がまずいことになるし、別の場所でかまって?」
『その方がいいと思います』

そのポソポソと内緒話をするように囁かれた紫音の声に、まだ俺のことを心配しているのがうかがえて、


"“かまって”のとこはスルーなわけね"


「ハハッ」

俺は思わず声をたてて笑った。

『何がおかしいんですか?』
「いや、紫音だな…って思って」
『私……ですよ?』
「ククククッ」
『?』
「可愛いな。ククッ」
『へ?』
「だから可愛いなって」
『…………』
「可愛い」
『何なんですか、もぉ!?』

俺の正直な気持ちだけど、それをちょっとからかい気味にしたら、紫音がプゥッとむくれた表情を見せてきた。

「っ!!…………ムリ。ダメ。限界」

紫音の手を引き、足早にそこから離れる。

「荷物貸して?」

俺はそう聞きながらも紫音の返事を待つことなく、カートには乗せずに縦向きに転がされていたスーツケースを横にして、それを持ち上げた。

『ちょっ……待って下さい』
「ダメ。待たない。早く二人きりになりたい」

そんな俺を慌ててひき止めようとした紫音だったけど、紫音の可愛さにやられていた俺はそれを断り、切望の想いを言葉に出した。