「あ、彼氏来たね。じゃあまたね、紫音ちゃん」
「紫音ちゃんバイバイ」
『はい。さようなら』


待ち合わせの場所にいた紫音と見知らぬ男子生徒が二人。
そのネクタイの色から高等部の3年生ということだけがわかる。

紫音に笑顔でそう言った二人に、同じような笑みで返した紫音。


「何してた?」
『何って…お話しを』
「………ちょっとこっち来て」

俺はそう言うと、紫音の手を掴んで歩き出した。

待ち合わせをしていた場所から少し離れた校舎裏に連れて来ると、


ドンッ


俺は紫音を壁際に追いつめ、その背にあった壁に勢いよく手のひらを押しつけた。

『へ?』

俺を見上げてくる紫音の瞳と、その紫音を見下ろす俺の瞳が交わり、

「いつからヤローに名前で呼ばせてんの?」

とその瞳を射抜くように見つめ、問いかけた。

『名前……』
「“紫音”って」
『皆さんそう呼んで下さるように……んっ』

俺は嬉しそうに答える紫音の言葉を遮り、音が漏れ出たそこを塞いだ。


小さなリップ音。


「紫音は俺のだろ。
俺が紫音の名前を呼んだら嬉しい?」

俺のその言葉にフッと微笑んだ紫音がうつむいたかと思うと、そのまま俺の胸元にトンッと額を預けてきた。


『煌暉くんが呼ぶ声しか“心”は聞こえません』


そう言ってくれたからってわけじゃないけど…


「紫音…好き」


俺が囁いた声は、そこに甘く響いただろうか。