そのまま俺の背中へまわしてきた手。

ギュッと抱きついてくる紫音は可愛いけど、
その身体にフィットしたドレスは、やっぱりその線を教えてきて、ヤバい……

俺が気になっていたその大きさが、いくら服越しと言っても、感じれるほどの隔たり。
観衆にお披露目していたであろう谷間は、真にリアルなものだった。


"タンマ。落ち着け、俺。純情少年か……"


動揺している俺にはお構いなしで、ていうか無自覚?
さらにギューーッと密着してくる紫音。


"マジヤバいって…あたりすぎ……"


だけど、

『私、ちょっと怒ってるんですよ』

俺の胸に顔をうずめたままボソボソとつぶやいた言葉に、今度は俺がたじろいだ。

「え!?」
『だって……来ないで下さいってお願いしたのに……』
「あーー……」

そういえば、夕方の別れ際にそう念を押されていたことを思い出した。

店に来るまでは“まずいよな”って思ってたけど、初めて見る店での紫音の姿を目にした途端、そんなことはぶっ飛んで、さらに細い指が奏でる音と、赤く色づく口唇が紡ぐ甘い歌声に聞き惚れた。

そのあとバックヤードに下がった紫音を追いかけるように、オーナーである七聖の母さんに許可を貰ったから、今俺はここにいれるわけで。

「ごめんな。家に帰ろうとしたんだけど……やっぱもう少し紫音と一緒にいたくて。ほぼ毎日一緒にいるけど……全然足りねぇ」
『煌暉くん、前から思ってたんですけど……』

俺の切望を込めた言葉を聞き、少し言いにくそうにした紫音の様子を感じて、キュッと胸が締めつけられた。


"ヤバ………重いか俺?“


だけど、

『私の思考が読めるんですか?』


"は?思考?"


俺の心配したこととは全く関連性のないその言葉に、俺の頭はその言葉を繰り返したけど、
次に続けて言われたことが、息苦しくなるほど俺の胸を甘美に満たしていった。