「おおっ、可愛子ちゃん見っけ♪」

「え?」


 走り込んで部屋へ入って来た茜に、いきなり新藤が食いついた。その気持ちは分からなくはないが、俺の前でそんな態度を取ると左遷になると思え、新藤。


 それにしても、茜は4年前とは比べ物にならない程に女性らしくなった。結婚した当時はまだ幼さが残っていた女の子で少女の様な可愛らしさがあった。けれど、今の茜は随分と大人の女性に成長したものだ。

 商品開発課の皆の顔を見ながらにこやかな笑顔を振りまく茜には俺の姿など目に入らないのだろう。俺を見ようともしない。

 なら、何故、この部署などに配属になったのか俺にはとんと理解できない。

 茜は舞阪商事(株)の会長の孫で一族の一員なのだから、希望すれば自分の望んだ部署へ配属されたはずなのに。茜の希望でここへ来たとは考え難い。しかし、離婚した俺達を同じ部署で働かせたいと会長が思うはずはない。

 この人事は全く以て不可解だ。


「新入社員が勤務初日から遅刻とはいい度胸だ。それで、遅刻の理由をハッキリ聞かせてもらおうか?内容によってはこの部署に置くことは出来ない。人事部長に相談する。」

「ええっ?! 課長、そりゃああんまりだよ!だって、初日だよ? もしかしたら道に迷ったかも知れないんだよ? こんな可愛い子だから、ここへ来るまでにナンパされて他の社員に離して貰えなかったかも知れないじゃないか。それなのに課長はそんな可哀想な子をいきなり初日でバッサバッサと切り捨てるんですか?! そんなの横暴だ! 課長らしくないし! あ、いや、そこんところは課長らしいですよ。けどね、」

「煩い!! 誰か新藤の口を塞ぐ奴はいないのか?!」


 佐伯も狩野も知らん顔している。知らん顔どころか、茜とさっそく勝手に自己紹介を始めてしまった。俺を課長だと思っているのか、この連中は。