さよなら、もう一人のわたし

 支配というのは嫌な響きだった。彼女が母親を嫌っているわけでもなさそうだった。
 それなら母親を好きだった父親の姿に何か考えるところがあったのだろうか。

 魅入られるという言葉。そして、彼女の父親が旅に出たとも聞いた。
 彼女の父親は今、何をしているのだろうか。
 わたしは疑問に思いつつもそれ以上聞くことができなかった。

「まあ、そんな父親でも感謝はしているわ。父親がお金を残してくれたわけだから、わたしも兄も学校に通うことができるけど、そうじゃなかったら困るわよね」

「確かにね」

 少なくともこんな家には住むことができなかったのかもしれない。

「飲み物飲む? 忘れてい」

「気を遣わなくていいよ」
「適当に見つくろってくる。アルバムとか適当に見ていていいからね」

 千春はそう言うと部屋を出て行った。

「魅入られる、か」

 わたしもそうなのかもしれない。彼女の存在が色濃く残っていた。まるでその人に恋をしているかのように鮮明に。それほど魅力のある人だったのだろう。
 わたしはアルバムを捲る。