さよなら、もう一人のわたし

「素敵な話だと思うけど」
「でも父親が書いたラブストーリーなんて気色悪いでしょう? 赤の他人が書いていたらその感想も違ってくるかもしれない」
「お父さんがいないからよく分からないかな。どうなんだろう」

 千春の表情が曇った。

「ごめん。無神経だったかな」

 わたしは変な言い方をしてしまったかもしれないと思い、慌てて否定した。

「そんなつもりじゃなくて、本当によく分からないの。お父さんってどんな感じなのかな、とかね」

 わたしにとって父親は架空の存在でしかない。
 千春の顔がより暗くなっているのに気づいた。だから、話を切り替えようとした。

 わたしは変な言い方をしてしまったかもしれないと思い、慌てて否定した。

「そんなつもりじゃなくて、本当によく分からないの。お父さんってどんな感じなのかな、とかね」

 わたしにとって父親は架空の存在でしかない。
 千春の顔がより暗くなっているのに気づいた。だから、話を切り替えようとした。


 彼女の家もいろいろと複雑なのかもしれない。

「お父さんのこと嫌い?」
「嫌いというよりは腹立つかな。でもね、父親にも一つだけ同情の余地があるのかもしれないとは思っている」

 彼女は穏やかな口調でそう言葉を続けた。