さよなら、もう一人のわたし

「親子で好きだったのか。それは意外だったかも」
「親子でごめんなさい」

「責めているわけじゃないのよ。ただ嬉しくて。わたしの両親や伯父以外にその映画を大好きな人がいてくれたと思うとね。だからあなたがいいって思ったのよ。わたしよりも何倍もこの映画のことを好きでいてくれているかもしれないとね」

 なんとなく彼女の言い方が気になった。
 彼女はこの映画をあまり好意的に考えていないのではないかと思ったからだ。

「千春はあまり好きじゃないの?」
「主人公の気持ちがさっぱり理解できませんから」

「千春はああいう男が嫌いなの? それとも果歩が?」
「だってあれは」

 彼女は人差し指を唇に当て、何かを深く考えているようだった。

「まあ、いいわ。知らないほうが幸せってこともあるし」
「気になる言い方しないでよ」
「だって考えてもみてよ。わたしの父親が書いた脚本なのよ? 何か気持ち悪いでしょう?」

 彼女はそう必死に主張する。