さよなら、もう一人のわたし

 そんな人を惹きつける彼女が人を好きになる。
 それは彼女の学校に転校してきた男の子だった。粗暴な態度を取るその男に対して少女は最初不快感を抱いていたのだ。しかし、彼女のそんな彼に対するイメージが一変する。

 彼の本心を聞いたときだった。偶然で、彼女が何も気にしなければ二人はすれ違い、その人生は交差することがなかったのかもしれない。でも、彼女は「彼」に気づいた。

「物事を偶然と片付けるのは簡単だよ。でもそれを運命だと思ったの」

 千春は舌をぺろっと出した。

「ごめん。これ、わたしがあの映画で一番好きなセリフなの」
「わたしも好き。セリフだけではなくて、ほんの何気ない仕草に果歩が気づいて、彼への誤解が一気に解けていくの。このために前半の時間は存在していたんだなって素直に思えて」

 千春は優しく微笑んでいた。

 彼女の微笑みを見て、わたしは必要以上に語りすぎてしまったようだ。

「ごめん。わたし、つい熱くなってしまって」

 思わずあれこれ語ってしまったことを恥じていた。

「この映画、いつ見たの?」
「お母さんが好きな映画だったの。ビデオに撮っていて、それを何度も見たの」