さよなら、もう一人のわたし

 千春が細い指をわたしに向ける。

「だから、あ・な・た」
「はい?」

 わたしの頭の思考回路が全てストップしたような気がする。そんな感覚だったのだ。

「だから、あなたはどうかなって推薦しておいたのよ。伯父さんにね」
「にね、じゃなくてわたしには無理よ。絶対無理」
「でもオーディション出ていたじゃない。昨日だって、興味あるように見えた」

「そうだけど。急な話すぎるよ」

「一応、伯父の厳しいチェックは入ると思うわ。もしかしたらダメと言われるかもしれない。でも出てみたくない? あの映画に出られるなら。あなたが今後女優になれたとしても、あの映画に出られる可能性は二度とないの。そのチャンスが今、なのよ」

 その言葉に導かれ、映画の内容を思い出していた。
 少女の淡い恋物語だった。水絵が演じる果歩という少女が微笑み、笑うだけで彼女に目が惹かれてしまう。大地を照らす太陽も、辺りに漂う森林も、聞こえてくる鳥の鳴き声も彼女を引き立たせるために存在しているようだった。

 わたしはもう一つの千春と母親の共通点に気付いた。千春も、そうだったのだ、と。
 わたしの中の果歩という女性が千春に替わっても難なく受け入れることができるだろう。
 彼女は果歩になれる。