さよなら、もう一人のわたし

「あなたが好きなお母さんの映画をリメイクしないかっていう話があるの。それにわたしが出ないかって。彼女の娘ってことで話題性があるかもしれないってね。お母さんが亡くなったことも公表して」

 わたしは突然聞かされた言葉に彼女を見た。

「すごいじゃない。出るの? この前オーディションに出たってことはそういう気があるってことだよね?」
「出ないよ」
「どうして?」
「嫌だから」

 彼女はわたしの言葉をばさっと切り捨てた。

「わたしは素人だし、そんなものに出られるわけない」

 わたしは昨日の彼女の姿を思い出していた。演技の経験がないといっても彼女は十分上手だった。少なくともわたしよりは。

「でもそんなチャンス滅多にないかもしれないし」
「わたしは女優になりたいわけじゃないのよ」

「何になりたいの?」
「……言えない」

 千春は顔を赤く染めた。

「そんなに恥ずかしいものになりたいの?」
「誤解を招くような言い方しないでよ。ただ普通の人生を送りたいの。人の注目も浴びたくないから」

 千春の瞳に影が映るのが分かった。
 彼女はわたしの知らない何かを知っているのかもしれない。