「やっぱそうだよな。さっきちらっと見えたときは一瞬別人かと思ったんだけど、やっぱりあんただった」
「気づいて、助けに来てくれたの?」
「助けに来たって言うか……うん、まあ気になって。じゃあ」
じゃあって……!
あり得ないほど急なタイミングで会話を終わらせて立ち去ろうとする彼の腕を、思わずつかんでしまった。
しかも、両手で。
「……なに」
彼がじっと私を見る。その目はさっきみたいに怖くはないけど、冷汗がだらだらと流れた。
しまった。どうして私、引き留めてしまったんだろう。
「あ、あの、お礼を言わなきゃと思って」
「さっき言ってたけど」
「そうだっけ。えと、あの……」
痛いほど高鳴る心臓。
しっかりしろ、私。
「あのっ、私、広瀬瑞穂です」
「ふうん」
おいおい。普通、名乗られたら名乗り返さない?
「名前、聞いてもいい?」
勇気を出してそう尋ねると、彼は困惑の表情を隠しもせず、ぼそりと呟く。



