「ま、まさか。いないよ」
いつも考えることと言えば、いつ病気が治るのかとか、これ食べたらお腹痛くなるかなあとか、ネガティブなことが多かった。
誰かを好きだなんて思う余裕もなかった。
いや、病気だって好きな人がいる人はいるか。単に出会いがなかっただけかも。
「でも、これから忙しくなりそうだよね、瑞穂」
「は? なんで?」
「だって、健康的な瑞穂ってとっても綺麗。表情も明るくなったし。きっとモテるよ~」
つんつんと私の頬をつつくのはフミ。
まさかあ。前よりはマシになったかもだけど、男子にモテるほどじゃないよ。
「そんなことより、フミは彼氏とどこまで済ませたのよ~!」
質問を返すと、フミは顔を真っ赤にして、でへへとだらしなく笑う。
そんな彼女を、みんなで羨ましがりながら、思う存分からかってやった。
うん、恋っていいな。死ぬ前にぜひ体験してみたい。
今までのストレスをすべて解消するような勢いで話して笑ったその夜は、鼻からチューブを入れる必要もなく、久しぶりにすっと眠りにつくことができた。



