「ちょっとだけ時間をもらえないかな」
健斗はじっとこちらを見つめて言う。
その瞳に、怒りの色はなかった。
「……何の用?」
聞き返している間に、横断歩道の信号が点滅し始めた。
健斗はバイクから降り、近くにあった縁石の上に立つ。
「ここじゃ轢かれちゃうから、そこの公園に行こう」
たしかに、こんなところで自転車とバイクで立ち話していたら危ないし、他の車両や通行人の邪魔に違いない。
私が自転車から降りてうなずくと、健斗はバイクを引いたまま少し先を歩き始めた。
無言のまま五分ほど歩くと、遊具の他に小さなグラウンドが併設された、少し大きめの公園についた。
グラウンドの方にはあまり人がおらず、遊具の方も親子連れが何組かいるくらい。
小学校も終業式が終わったばかりだろうだから、こんなものか。
周囲に植えられている木から蝉の鳴き声がうるさく響く。



