「遅れてごめん」
振り返って見ると、彼は黒い無地のTシャツにデニムという、かなりシンプルな格好をしていた。図書館で会ったときと、ほぼ同じ。
それなのに、格好良く見えるから不思議だ。
「浴衣だ」
私服をガン見していた私の視線を知ってか知らずか、健斗も私を頭の先からつま先まで、じっと見ていた。
「や、やっぱり地味かな?」
「ううん。似合ってる。可愛いよ」
そう言って、健斗ははにかむ。
『可愛い』いただきました……!
「じゃ、行こうか」
もっと褒めてほしかったけど、健斗はあっさりと歩き出してしまう。
「ちょっと待って」
こんなに人がいて、しかも私は浴衣で、足元は下駄。
いつものようにスタスタ歩かれたら、あっという間にはぐれてしまう。
健斗の背中が人の波に飲まれて消えてしまいそうな気がして、夢中で手を伸ばす。
そしてなんとかつかんだのは、彼の左手の小指だった。



